「マウス―アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語」 アート・スピーゲルマン著

◇ IB Language A (Literature)では、翻訳作品を2つ、リストから選ぶことになっている(以前はWorld Literatureと呼んでいたが、2011年以降にスタートした新しいIB Languageでは、Literature in Translationと呼んでいる)。

◇私がふだん教えているIB Japanese Aを自学している生徒の中には、IBディプロマをスタートしたばかりの段階で「罪と罰」のような大作を、大作と知らずに選ぶ生徒もいる。もちろん、それで最後まで読んでくれればこちらは一向に構わないのだが、期の途中で挫折し(というかIBディプロマの忙しさに気づき)、作品変更の相談を受ける場合も多い。そういう時にお勧めするのがこの「マウス」である。

◇何しろ漫画であるから、読むのに時間はかからない。1時間もあれば読み切ってしまう。ストーリーも表題からほぼ想像がつくので、時間を節約したい生徒にはうってつけである。

◇ユダヤ人の視点でホロコーストが描かれているにも関わらず、センチメンタリズムを排した冷徹なタッチであるのがこの作品の文学的評価を高めている理由の一つであろう。生徒がよく注目するのは、ユダヤ人がネズミ、ドイツ人が猫、ポーランド人がブタとして描かれている点である。ある民族を動物として戯画化するという手法は、解釈によっては差別につながりかねないので扱いが難しいけれども、当時多くのユダヤ人を抱えていたポーランドの状況を考えつつ、「追う追われる」という関係にある猫とネズミに関係のないブタを利用した作者の意図を考えてみるのも、エッセイのテーマとして面白いかもしれない。