◇副題に「政治哲学と市民」とあるのは、訳者が付け加えたものだろうか。この副題が見事にこの書の本質を突いている。著者のバーナード・クリックは政治学者であるということが、この書物の基本的な性格を決定づけているのだ。
◇つまるところ、シティズンシップ教育は政治教育なのである。「政治リテラシー」というシンプルな概念がストンと腑に落ちた。バーナード・クリックがデモクラシーをどのようにとらえているかは、本書の「監訳者あとがき」に簡潔にまとめられているが、その見方は、日本の教育現場において一般的にみられる態度とは大きく異なる。
◇デモクラシーは多数による統治なのではなく、あくまでも少数者の権力行使による統治なのだという冷徹な見方をクリックは示している。その一方で、統治権力の公正な行使のために多数者の監視が必要であり、また統治権力も危機に対処するために多数者の支持が必要であるという観点から、能動的な市民育成(=シティズンシップ教育)を提唱しているのである。
◇イギリスでは、2000年にシティズンシップ教育施行令が施行され、全国共通カリキュラムの適用対象となったようだが、日本では「受験に公民は不要」とばかり、どんどん公民が軽視されていったところに問題がありそうだ。しかも「公民」で教える内容が政治リテラシーと言えるかどうかも甚だ疑問である。