最近文科省の資料で「eポートフォリオ」という用語をよく見かけるようになりました。同時に、教育産業がここぞとばかりにICT機器を学校に売り込んでいる様子も伝わってきます。「e」という文字が付くと、テクノロジーの側面が強調され、すぐにICT機器やアプリが注目されるのですが、本質はそこにはありません。
確かにICT機器は必須なのですが、なぜICT機器が大切かというとそれは、「学習の個別化」(パーソナライズド・ラーニング)が可能になるという点にこそあります。評価というと、これまで全体の中のポジション(簡単に言えば偏差値)ばかりに目が行っていたのですが、それが、ICTの活用による学習の個別化によって、自身の学習履歴の共有が容易になり、これによってリフレクションや形成的評価が促進されるという点こそが重要な点です。
ですから、教育業界の大手企業が中心になって、eポートフォリオをビジネスチャンスと捉えて市場のシェア獲得にしのぎを削っているのは、ある意味でパラドクシカルだと言えます。スケールメリットを自ら捨てて「学習の個別化」に掉さしているからです。もちろん、学習者自身が形成的に評価を行うというメリットが十分に意識されているのであれば結構なことですが、片方で偏差値的相対評価を手放さないままに、eポートフォリオ市場の拡大を進めているのであれば、その矛盾はやがて企業の存立に関わることにもなりかねないでしょう。
もう一つ皮肉なことは、文科省が旗を振ると、グローバルに開かれるチャンスであるeポートフォリオのあり方をドメスティックに閉じ込めて、またもガラパゴスを形成しかねないということです。願わくは、単に日本の大学進学の振り分け装置のような使い方ではなく、学習者が自分の評価を自分の手に取り戻すための道具にしてほしいと思います。